IBプログラムで周囲と比較して落ち込んだ時の心の整え方
IBディプロマプログラム(DP)は、その学習量の多さや特殊な課題(CAS、EE、TOKなど)の難しさから、生徒に大きなプレッシャーを与えることがあります。そうした環境の中で、多くの方が直面するのが、周囲の友人や同級生との進捗や成績、知識レベルを比較してしまうことによる不安や焦りではないでしょうか。私もIBプログラムに挑戦していた当時、この「比較の罠」に何度も陥り、精神的な苦痛を感じた経験があります。
この記事では、IB卒業生である私が、どのようにしてこの比較による不安を乗り越え、IB生活を充実させることができたのか、具体的な体験談を交えながら、心の整え方についてお話しいたします。
IBプログラムにおける比較のプレッシャー
IBプログラムは、生徒一人ひとりの探究心や自己成長を重視する教育プログラムです。しかし、実際には、周りの生徒が優秀に見えたり、特定の課題の進捗が早かったりすると、自然と自分と比較してしまいがちです。
私の場合は、特にExtended Essay(EE)のテーマ選定やTOK(Theory of Knowledge)のエッセイの執筆において、周りの友人がすでに具体的に進めているのを見て、「自分はまだ漠然としているのに、これで大丈夫なのだろうか」という焦りを感じることが多々ありました。また、得意科目と苦手科目がある中で、周囲の友人が全ての科目で高得点を取っているように見えて、劣等感を抱くこともありました。
このような比較は、多くの場合、私たちのモチベーションを低下させ、学習への集中力を削いでしまう可能性があります。しかし、この感情はIBプログラムに取り組む上で自然に生じるものであり、大切なのは、それにどう向き合い、乗り越えていくかという点です。
比較の罠を乗り越えるための具体的な心の整え方
私が実践し、効果があったと感じる心の整え方をいくつかご紹介します。
1. 自分の「過去」と比較する視点を持つ
他者との比較は、しばしば私たちを「足りない自分」に目を向けさせてしまいます。しかし、IBプログラムは短距離走ではなく、長距離走です。今日の自分と昨日の自分、あるいは1ヶ月前の自分を比較してみてください。
私は毎週、その週に学んだことや達成できた小さな目標をノートに書き出す習慣を持っていました。例えば、「数学の新しい公式を理解できた」「CASの活動で新しい経験ができた」「EEの参考文献を5つ読み終えた」など、どんなに小さなことでも構いません。
これを続けるうちに、自分が着実に進歩していることを視覚的に確認できるようになりました。他者がどこにいるかではなく、自分がどこから来て、どこまで進んだのかに意識を向けることで、自信を取り戻し、前向きな気持ちを維持することができました。
2. 目標を「達成可能な小さなステップ」に分解する
大きな課題や膨大な学習量を前にすると、途方もなく感じ、他者の進捗がより早く見えてしまうことがあります。この不安を軽減するためには、最終目標を細分化し、毎日または毎週達成できる具体的な小さなステップに落とし込むことが非常に有効です。
例えば、EEの執筆であれば、「今日は導入部分の構成案を作成する」「週末までに参考文献を2つ読む」といった具体的なタスクを設定します。そして、それぞれのタスクが完了するたびに、チェックリストに印をつけるようにしていました。
この方法は、タスク一つ一つに集中することで、他者との比較から意識をそらし、目の前の「できること」に集中する助けとなります。小さな達成感を積み重ねることで、自己効力感が高まり、モチベーションの維持にも繋がります。
3. 信頼できる人に悩みを打ち明ける
IBプログラムは孤独を感じやすい側面もあります。一人で悩みを抱え込むと、不安は増幅されがちです。信頼できる友人、先生、家族、あるいはIBプログラムを経験した先輩に、正直な気持ちを打ち明けることは、心の負担を大きく軽減します。
私も、友人がすでにEEのテーマを決めて研究を進めていると聞いて焦りを感じた際、担当の先生に相談したことがあります。先生は、「他人と比較する必要はない、あなたのペースでじっくりと探究することが大切だ」と諭してくださいました。また、他の生徒もそれぞれのペースで悩んでいることを知り、私だけではないと安心できたことも大きな心の支えとなりました。
悩みを共有することで、客観的なアドバイスを得られるだけでなく、「自分だけではない」という共感が、精神的な安定に繋がります。
4. 休息とリフレッシュの時間を意識的に確保する
常に学習や課題に追われていると、心身ともに疲弊し、ネガティブな感情に陥りやすくなります。比較による不安も、疲れがたまっている時に強く感じることが多いものです。
私は、どんなに忙しくても、週に一度は完全にIBから離れる時間を作るよう心がけていました。好きな映画を観る、スポーツをする、友人とカフェでおしゃべりするなど、心からリラックスできる活動に時間を使いました。
意識的に休息を取ることで、頭をリフレッシュさせ、次の週に向けて新しいエネルギーをチャージすることができました。これが、長期的なモチベーション維持に非常に重要であったと実感しています。
最後に:IBの真の目的を再認識する
IBディプロマプログラムは、単に高いスコアを取るためのものではありません。クリティカルシンキング、探究心、国際理解、そして自己管理能力といった、将来に役立つ幅広いスキルと人間性を育むことを目的としています。
他者との比較に囚われすぎず、自分が何に興味を持ち、何を学びたいのかという内なる声に耳を傾けることが、IBプログラムを真に豊かにする鍵となります。あなたのIBの旅は、あなた自身のものです。焦らず、自分自身のペースで、一つ一つの課題に丁寧に向き合っていくことで、きっと素晴らしい成長と成果を得られるはずです。
もし今、あなたがIBプログラムのプレッシャーや他者との比較に苦しんでいるのであれば、一人で抱え込まず、この「IB生・卒業生のリアル」のようなコミュニティや信頼できる人に相談してみてください。あなたの経験は、きっと誰かの役に立つことでしょう。